吉野本葛の優しいとろみに包まれた、心と体に優しい野菜スープ
2023.01.30
奈良の名産品のひとつである吉野本葛。irodori kintetsu(いろどりきんてつ)では吉野本葛を作り続けて150年の天極堂との共同開発で、 奈良県産の地場野菜を使ったスープを販売することになりました。葛ならではのとろみの中に豊かな野菜の香りと味が感じられる、このスープの開発秘話をご紹介します。
葛の匠が生み出す、純白の吉野本葛
吉野本葛の原料は、山野に自生するマメ科の植物「葛(クズ)」の根っこです。秋に紫色の美しい花を咲かせる葛ですが、 地中に伸びる根は巨大。日本ではこの根を1300年以上も前から食用・薬用として生活に取り入れていました。 さらに江戸時代には葛を水に晒す技術が確立し、全国各地で葛粉が作られるようになったのです。

なかでも奈良県吉野地方では、冬場の冷たい地下水に葛を晒す「吉野晒」という製法が編み出され、葛粉の生産が盛んに。 職人が何度も葛のデンプン質を水に晒すことで作り出す葛粉は、美しい純白に仕上がることから「吉野本葛」と呼ばれ、独自のブランドを確立するようになりました。

上記写真は、吉野晒が終わった葛液を舟と呼ばれる層に流して一晩おいた後の工程で、上水を流した後にブラシで表面のあくを取っている仕上げの作業です。
この後葛をカットし、乾燥させれば、吉野本葛の出来上がりです。
1870年創業の天極堂は、この吉野晒による吉野本葛造りの伝統を今に伝え続ける老舗葛屋のひとつ。
奈良・京都を中心に全国の和菓子店や日本料理店に葛粉を卸すだけでなく、自社でも看板商品である葛湯をはじめ、
葛切りに葛餅といった和菓子から洋菓子、胡麻豆腐や葛うどんなどの食品まで開発。吉野本葛の魅力を広く世に伝えることに力を入れています。

このように根強い人気を誇る葛ですが、近年では葛をあまり知らない若者も増えてきました。 そこで地域商品ブランドを展開するirodori kintetsu(いろどりきんてつ)では、 奈良の名産品のひとつである吉野本葛の魅力をもっとたくさんの人に知ってもらおうと、 天極堂と共に葛を使った新商品の開発に挑戦。完成したのが今回ご紹介する「葛のとろみポタージュスープ」なのです。
吉野本葛と奈良県産の地場野菜で、これまでにないスープを
irodori kintetsuから商品開発について相談を受けた天極堂の想いはどのようなものだったのでしょう。天極堂リテール部マネージャーの植松英樹さんにお話を伺いました。

「irodori kintetsuさんの『近鉄沿線の生産者を繋いだ商品づくり』というコンセプトに共感し、お引き受けすることにしました」と当時を振り返る植松さん。
最初は葛湯の新商品をと考えていたそうですが、共に話し合う中でirodori kintetsuサイドから出てきたのが、奈良で生産されている野菜を使った野菜スープというアイデアだったのです。
「実は天極堂でも、葛を使った野菜スープを開発したいと以前から考えていたんですよ。
なのでirodori kintetsuさんから『若者に葛の魅力を伝えるためにも、野菜スープに挑戦してみないか』との意見をいただいたとき、実現するチャンスが来たと嬉しくなりました」
また組み合わせる野菜もこだわりたいと話し合う中で、irodori kintetsuと天極堂の両方から名前が上がったのが、奈良県宇陀市で無農薬有機農法に取り組むウエルネスフーズUDAの野菜です。


農薬や化学肥料を一切使わずに育てられた野菜の豊かな味・香りを、吉野本葛の優しいとろみで包み込んだ、体に優しく食べてホッとするスローフードなスープを開発しよう。 このビジョンをもとに、葛を使った野菜スープの開発が始まりました。
選び抜かれた3種類の野菜
野菜選びからスタートしたスープ開発。ウエルネスフーズUDAから提供されたおよそ20種類の野菜のうち、選ばれたのが「きくいも」「宇陀金ごぼう」「ほうれん草」の3種類です。
「今回のコラボレーションを喜んでくださったウエルネスフーズUDAさんが、20種類ほどの野菜を提供してくれました。
その中から、野菜の味・香りが分かりやすく、葛のとろみとの相性が良いものを絞り込む中で最終的に残ったのが、この3種類です」と話してくれたのは天極堂の商品開発担当である藤野 布久代さんです。

きくいもは見た目が生姜に似ているキク科の植物。食べると口の中で甘味が増してくるのが特徴です。 芋類は基本的に加熱してから食べますが、きくいもは生食も可能。生で食べるとサクサクした食感が、加熱するとホクホクの食感が楽しめます。


宇陀金ごぼうは、雲母が多く含まれる宇陀の土壌で育てられた伝統野菜。 肉質が柔らかでごぼう特有の香りが強いのが特徴。付着した雲母が光ることから縁起物としても珍重されてきました。


「きくいもは芋本来の甘味と葛のとろみとの相性が非常に良く、試食でも男女を問わず人気が高かったですね。老若男女に愛される味だと思います。
宇陀金ごぼうは、ごぼうの香りが豊かに感じられる根菜好きにはたまらないスープだと自信を持っています」と藤野さん。
また無農薬有機農法で育てられたウエルネスフーズUDAのほうれん草は、ほうれん草本来の甘味・コクが強く感じられるのが特徴。
着色料は一切使っていないのに、鮮やかなエメラルドグリーンのスープになっているのが驚きです。


「ウエルネスフーズUDAさんのほうれん草が本当に素晴らしくて!
私たち開発チームはこの味と香りをストレートに伝えたかったのですが、試食で好みが分かれてしまったことから、何度もレシピを見直しました。
最終的にはほうれん草の風味を生かしつつも、老若男女に好まれるスープに仕上がったのではないかと思います」
無農薬有機農法で育てられた野菜の美味しさを存分に楽しめるのも「葛のとろみポタージュ」の魅力。
またスープに使用されているのは、ウエルネスフーズUDAで規格外となった野菜を粉末にしたもの。フードロスを防ぐことにも、このスープは貢献しているのです。
ウエルネスフーズUDAについてはこちらの記事でも紹介しています。
葛のとろみポタージュの楽しみ方
最後に「葛のとろみポタージュ」の楽しみ方をご紹介します。
[Step1]熱湯を注いでよくかき混ぜます。粉末が多めなのでしっかり溶かして!
[Step2]電子レンジで約30秒加熱したのち、かき混ぜて完成
作り方はツーステップです。
[Step1]の段階でポタージュスープの状態に。さらに[Step2]を加えることでスープに透明感が出てきて、葛独自のとろみが現れます。
この変化こそ、皆さんにぜひ楽しんでいただきたいところ。完成したスープを飲んでみるとまず葛のとろみを感じ、続いて葛に包まれた豊かな野菜の香りと風味が舌に届きます。
「開発においては葛粉の粒子の細かさに泣かされましたが、スープが舌に乗ったときに葛の繊細な口当たりと野菜の旨味を感じられるのは、この細かさゆえ。
irodori kintetsuさんが『こんな野菜の感じ方ができるスープって世の中にないよね、新しいよね!』と強く我々を後押ししてくださったからこそ、
天極堂も諦めずに開発に取り組んでこれました」と植松さんと藤野さんは苦労を振り返ります。


こうして誕生した「葛のとろみポタージュ」は、今までにない商品だと自信を持ってお送りするirodori kintetsu×天極堂の自信作。 寒さが訪れるこれからの季節、天極堂の吉野本葛の優しいとろみでまとめたこの野菜スープで、心と体がほっと癒される時間をお過ごしください。
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取材先:吉野本葛 天極堂 橿原店
奈良県橿原市忌部町321
